
本記事は、家賃値上げ・賃料増額請求の通知を受けた借主向けの詳細対応ガイドです。
退去要求、更新拒絶、共益費・管理費・駐車場代のみの値上げについては、総合ガイドから該当する記事をご確認ください。
家賃値上げ通知を受けても、通知を読んだだけで新しい家賃に同意したことにはなりません。借主は契約書、値上げ理由、適用開始日、請求額の根拠を確認し、納得できない場合は同意しない意思を記録が残る方法で伝えます。
本記事では、通知を受け取った日から取るべき行動を、5つの手順で解説します。
最初に確認してください
裁判所から訴状、支払督促、調停期日通知が届いた場合は、書面に書かれた期限を最優先で確認してください。
訴状や調停を放置すると、不利益な判断につながるおそれがあります。
弁護士、法テラス、全国借地借家人組合連合会(全借連)などへ早めに相談してください。
家賃値上げ通知を受けたら最初にすること
家賃値上げの対応では、感情的な電話交渉よりも、通知内容と契約内容を記録する行動が重要です。賃料増額請求では、後から「いつ、誰が、何を伝えたか」を確認できる資料が交渉や手続で役立ちます。
まずは、次の6項目を順番に進めてください。
| 順番 | 最初にすること | 保存・確認する資料 |
|---|---|---|
| 1 | 通知書を保存する | 通知書、封筒、メール、SMS |
| 2 | 契約書を確認する | 賃貸借契約書、特約、更新書類 |
| 3 | 値上げ内容を整理する | 現在額、新賃料、開始日、理由 |
| 4 | 根拠資料を求める | 相場資料、算定資料、説明書 |
| 5 | 回答を記録に残す | メール、書面、内容証明郵便 |
| 6 | 支払い記録を保存する | 振込明細、通帳、領収書 |
通知書は写真だけで終わらせない
家賃値上げ通知は、通知日、適用開始日、増額幅、理由を確認するための重要資料です。紙の通知は表面と裏面を撮影し、封筒の消印や差出人も残してください。
メールや管理アプリで届いた通知は、画面保存だけでなくPDF化もします。管理会社との電話内容は、通話日時、担当者名、説明内容をメモに残してください。
契約書では賃料条項と特約を確認する
賃料増額請求を受けた借主は、現在の賃貸借契約書を確認します。確認する場所は、賃料、共益費、更新、賃料改定、特約、契約期間の記載です。
国土交通省の賃貸住宅標準契約書でも、賃料改定は租税負担、経済事情、近傍同種賃料などを踏まえて協議する構成です。 個別の契約書には異なる定めがあるため、特約まで必ず確認してください。
家賃を自己判断で止めない
家賃値上げに納得できなくても、家賃の支払いを自己判断で停止してはいけません。支払い停止は賃料滞納として扱われ、契約解除や明渡し請求をされるおそれがあるからです。
増額請求に争いがある間でも、少なくとも従前賃料をどう支払うかは重要です。支払先、支払日、支払額を明らかにできる振込方法を選び、振込明細を保存してください。
家主は一方的に家賃を上げられるのか
家主や管理会社から通知が届いても、通知だけで適正な新賃料が確定するわけではありません。ただし、借主が「同意しない」と伝えるだけで、将来にわたり増額請求が消えるわけでもありません。
借地借家法第32条は、賃料が不相当となった場合に、貸主または借主が将来に向けて増減額を請求できると定めています。検討対象には、租税などの負担、土地・建物価格、経済事情、近傍同種物件の賃料が含まれます。
賃料増額請求で確認する4つの事情
| 確認項目 | 確認する内容 | 借主が求める資料 |
|---|---|---|
| 租税・費用 | 固定資産税、保険料、維持費など | 費目、増加時期、算定根拠 |
| 経済事情 | 物価、金利、地域の需給など | 具体的な説明資料 |
| 近傍同種賃料 | 類似物件の募集・成約賃料 | 面積、築年数、設備の比較 |
| 物件の状態 | 修繕、設備改善、老朽化、不具合 | 修繕履歴、工事内容、写真 |
物価上昇や固定資産税の負担増が説明されても、説明だけで増額額の妥当性が決まりません。対象物件の状態、契約条件、近隣の類似物件との比較を含めて判断されます。
通知、合意、調停、訴訟は別の段階
賃料増額の問題では、通知を受けた段階と裁判所の判断が出た段階を混同しないことが重要です。
| 段階 | 内容 | 借主がすること |
|---|---|---|
| 値上げ通知 | 家主側が増額を求める段階 | 内容と根拠を確認する |
| 協議 | 当事者が金額や条件を話し合う段階 | 回答を記録に残す |
| 合意 | 双方が新賃料や条件へ合意した段階 | 合意内容を書面化する |
| 調停 | 裁判所で話合いによる解決を目指す段階 | 期日と資料を確認する |
| 訴訟 | 裁判所が賃料額を判断する段階 | 期限内に答弁・準備する |
賃料増額請求で協議が整わない場合、調停を経て訴訟へ進みます。裁判所の書類を受け取った借主は、期限を確認して放置しないでください。
値上げが妥当か確認する方法
家賃値上げの妥当性は、家主側の説明だけでは判断できません。借主は比較対象となる物件、建物状態、修繕状況、契約条件を確認して、質問を具体化します。
近隣物件は条件をそろえて比較する
近隣の募集賃料だけを見ても、賃料増額の妥当性は判断できません。広さ、築年数、階数、駅距離、設備、方角、管理状況が近い物件と比較してください。
| 比較項目 | 自分の住戸 | 比較物件A | 比較物件B |
|---|---|---|---|
| 家賃 | ○円 | ○円 | ○円 |
| 専有面積 | ○㎡ | ○㎡ | ○㎡ |
| 築年数 | ○年 | ○年 | ○年 |
| 駅からの距離 | 徒歩○分 | 徒歩○分 | 徒歩○分 |
| 設備 | 例:浴室乾燥機なし | 例:浴室乾燥機あり | 例:浴室乾燥機あり |
| 募集・成約の別 | 居住中 | 募集中 | 募集中 |
募集賃料は実際の成約賃料と異なる場合があります。募集広告は参考資料として保存し、条件差も併記してください。
修繕や設備改善の有無を確認する
建物の大規模修繕や設備更新が行われた場合、家主側が物件価値の変化を主張する場合があります。一方で、室内設備の故障、共用部の劣化、長期未修繕の状態は、物件の評価で確認すべき事情です。
借主は不具合を放置せず、写真、動画、修繕依頼メールを保存してください。浴室、エアコン、給湯器、雨漏り、カビ、騒音、共用部の損傷などは、発生日と対応経過も記録します。
固定資産税や修繕費を理由にされた場合
固定資産税、修繕積立金、管理費、保険料、物価上昇は、家主側が挙げやすい値上げ理由です。借主は「費用が上がった」という説明と、「その金額の賃料増額が妥当か」という問題を分けて確認します。
次の質問を、メールまたは書面で求めてください。
- 値上げ額の算定方法
- 値上げ理由となる費目
- 費用が増加した時期と金額
- 近隣同種物件との比較資料
- 修繕・設備改善の実施内容
- 新賃料の適用開始日と法的根拠
修繕積立金や固定資産税が上がった事情だけで、借主が提示額へ直ちに同意する義務が生じるわけではありません。契約内容と物件の個別事情を確認し、説明資料を求めてください。
同意しない場合の回答方法
値上げに納得できない借主は、同意しない意思と確認事項を記録が残る方法で伝えます。電話だけでは内容を後から確認できないため、メール、書面、内容証明郵便を状況に応じて使い分けます。
回答前に整理すること
| 項目 | 整理する内容 |
|---|---|
| 通知内容 | 新賃料、増額幅、開始日、通知日 |
| 契約内容 | 現賃料、共益費、契約期間、特約 |
| 確認事項 | 算定根拠、相場資料、修繕内容 |
| 自分の方針 | 同意しない、協議する、条件を提案する |
初回回答の文例
以下の文例は、増額根拠を確認するための一般的な文面です。契約内容や裁判所手続の状況によっては、個別の調整が必要です。
賃料増額に関するご通知を受領しました。
現時点では、賃料増額の根拠および算定資料を確認できていません。
そのため、提示された新賃料への同意はいたしません。
増額の根拠、近隣同種物件との比較資料、算定方法、適用開始日をご提示ください。
資料を確認後、書面にて回答します。感情的な表現や人格批判は、交渉を不必要に難しくします。「同意しない理由」と「確認したい資料」を分けて、簡潔に書いてください。
連絡手段の使い分け
| 手段 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| メール | 初回照会、資料請求、日常的な連絡 | 送信履歴を保存する |
| 書面 | 方針を正式に伝える場面 | 控えと送付記録を残す |
| 内容証明郵便 | 重要な意思表示を明確に残す場面 | 文面作成前に内容を確認する |
| 電話 | 緊急確認や補足説明 | 通話後にメールで要点を確認する |
具体的な文例を使いたい場合は、拒否通知書面のひな形・使い方を確認してください。
家賃はどう支払うべきか
家賃値上げを争う場合でも、従前賃料の支払いを含む対応を軽視してはいけません。家賃を全く支払わない行動は、賃料滞納の問題を新たに生むためです。
借地借家法第32条は、増額について争いがある場合に、借主が相当と認める額を支払う扱いを定めています。将来の判断で不足額が生じた場合には、利息を含めた精算が問題になる可能性があります。
支払いで残すべき記録
- 振込日
- 振込額
- 振込先口座
- 振込名義
- 振込明細
- 家主または管理会社との連絡履歴
- 返金、受領拒否、口座変更に関する記録
家主が受領を拒否した場合
家主側が従前賃料の受領を拒否した場合、家賃を手元に置いたままにしないでください。受領拒否の事実を示すメール、返金記録、口座閉鎖の案内を保存します。
供託が検討される場面もありますが、供託は手続や金額の判断を誤ると不利益につながります。供託を行う前に、弁護士、司法書士、法務局、自治体の相談窓口へ確認してください。
管理会社・大家との交渉が進まない場合
値上げ通知への回答後、交渉が長期化する相談は、サイト内でも最も多い悩みの一つです。
根拠の開示、金額、開始時期、修繕、契約期間を組み合わせた提案も可能です。
交渉が進まない場合の具体的な質問例・提案例・記録の残し方は、
「管理会社・大家との交渉ガイド」で詳しく解説しています。
調停・訴訟が届いた場合
賃料増額請求では、協議が整わない場合に調停になります。調停では、現在の賃料、家主側の主張、相場資料、契約書、支払い記録を整理します。
調停申立書が届いた場合
調停期日には、通知書と本人確認書類だけでなく、次の資料を持参してください。
- 賃貸借契約書と特約
- 値上げ通知書
- 家主・管理会社とのメールや書面
- 家賃支払いの記録
- 周辺物件の比較表
- 修繕不具合や室内状況の写真
- 自分の回答書や提案書
調停に臨む借主向けガイドを参照してください。
訴状が届いた場合
訴状には、答弁書の提出期限が記載されています。答弁書の提出期限を過ぎると、借主の主張や証拠を十分に出せないおそれがあります。
訴状を受け取った借主は、家主側の請求内容、請求額、対象期間、添付資料を確認してください。争点が多い場合や金額が大きい場合は、早期に弁護士へ相談してください。
訴訟に臨む借主向けガイドを参照してください。
よくある質問
家賃値上げ通知を無視しても大丈夫ですか?
家賃値上げ通知は無視せず、内容を確認して回答を残してください。無視すると、同意の有無、協議の経過、根拠確認の記録を後から示しにくくなります。
同意しない場合は、増額の根拠と算定資料を求める回答をメールまたは書面で送ります。回答期限が短い場合でも、受領した事実と確認中である旨を先に伝えてください。
物価高を理由にした値上げは受け入れるしかありませんか?
物価高は、賃料増額の検討材料として主張される場合があります。ただし、物価高という説明だけで、提示額の増額が妥当になるわけではありません。
借主は、物価高がどの費目へどう影響し、近隣同種物件との比較でどのように新賃料が算定されたかを確認します。契約書、物件状態、相場資料を含めて判断してください。
更新時に新賃料の契約書へ署名しなければ退去ですか?
更新時の新賃料に納得できない場合は、署名前に契約書と通知内容を確認してください。普通借家契約か定期借家契約か、更新条項や特約がどうなっているかで対応が異なります。
署名を求められても、内容を理解せずに署名しないでください。退去を求める通知がある場合は、退去トラブルガイドラインも確認してください。
共益費・駐車場代だけの値上げも本記事の対象ですか?
共益費・駐車場代のみの値上げは、契約構造が異なるため本記事では扱いません。共益費増額への対応、駐車場代値上げへの対応を確認してください。
状況別に次の記事を読む
| 現在の状況 | 次に読む記事 |
|---|---|
| 回答文や拒否通知を作りたい | 拒否通知書面のひな形・使い方 |
| 共益費・管理費が上がった | 共益費増額への対応 |
| 駐車場代が上がった | 駐車場代値上げへの対応 |
| 退去要求も受けている | 退去トラブルガイドライン |
| 調停申立書が届いた | 調停に臨む借主向けガイド |
| 訴状が届いた | 訴訟に臨む借主向けガイド |
| 状況を整理し直したい | 総合ガイド |
監修・注意事項
法令確認日:2026年8月
主な根拠:借地借家法第32条、国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」
本記事は、日本国内の住居用賃貸借契約を主な対象として説明しています。賃料増額の可否や妥当額は、契約書、特約、物件所在地、契約類型、周辺賃料、建物状態、手続の進行状況によって異なります。
訴状、調停期日通知、内容証明郵便を受けた場合は、期限を確認してください。緊急性が高い案件や金額が大きい案件では、弁護士、法テラス、全国借地借家人組合連合会(全借連)などの専門家へ相談してください。


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